2013年12月2日

「ロープレ」はコミュニケーション能力を鍛えるか?【カウンター・エグザンプル】

● 今回のテクニック:【カウンター・エグザンプル(7)】

カウンター・エグザンプルとは、物事に対して、ある「一般化」の思い込みを
している人に対し、それが真実ではなく、単なる思い込みに過ぎないことを気
付かせるテクニックである。

「一般化」の表現をしている人は、「みんな」「すべて」「いつも」という表
現をよく使う。

本当に「みんな」そうなのか? 本当に「すべて」そうなのか? 本当に「い
つも」そうなのか?

具体的な過去の体験について語ってもらうことにより、その思い込みを気付か
せることができる。

あいまいな表現をする人には「具体的に?」「たとえば?」という質問を使っ
てみよう。


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● 今回のコミュニケーション例


マネージャー :
「それにしても君は社内にいるな」


部下 :
「え」


マネージャー :
「もう11時だよ。営業部、全員が外へ行ってるのに、君はまだパソコンの
前で何かやってる」


部下 :
「いろいろと雑務があるものですから」


マネージャー :
「雑務って【具体的に】何なの?」


部下 :
「ええっと。資料作成とか、お客様への訪問のための準備とか……」


マネージャー :
「作成している資料って、【たとえば】どういうもの?」


部下 :
「えーっと、先日の会議で指摘されたことを、業績管理資料に反映させてま
した」


マネージャー :
「数字の訂正じゃないか。そんなもの、2分でできる」


部下 :
「もちろん、それだけではないです」


マネージャー :
「あのね、私が聞いているのは、君が朝8時半に出勤して11時までパソコ
ンの前に座っている理由だよ。この2時間半の中で何をしていたのか、と聞
いたんだ。にもかかわらず、最初に示すのが2分で終わることか」


部下 :
「も、申し訳ありません」


マネージャー :
「それで、【具体的に】何をやってたの?」


部下 :
「ええーっと、あの……。いろいろとやってました」


マネージャー :
「もういいよ」


部下 :
「すみません」


マネージャー :
「とにかくお客様のところへ顔を出したまえ。水を撒きつづけないと、花は
咲かないんだから」


部下 :
「しかし、何もネタがないのに顔を出していたら相手が嫌がるだけです。で
すから、相手にどのような提案をすべきかしっかり考えてから足を向けたほ
うがいいと思うのです」


マネージャー :
「【たとえば】どのお客様のことを言ってるんだ」


部下 :
「K社さんです」


マネージャー :
「わかった。じゃあ即興でロープレをやろう。K社については、私もよーく
知っている。K社の部長になりきるから、わが社のXという商品を提案して
くれ。相手が興味あるというシチュエーションでやろう」


部下 :
「えっと……」


マネージャー :
「さァ」


部下 :
「……」


マネージャー :
「私が相手だとやりにくいか?」


部下 :
「ま、まァ、そうですね」


マネージャー :
「K社の部長と私と、どっちが緊張する?」


部下 :
「……た、たぶん、K社の部長です」


マネージャー :
「そうだよなァ。あの部長、けっこう怖いもんな」


部下 :
「はい……」


マネージャー :
「怖いんだろ。緊張するんだろ」


部下 :
「……」


マネージャー :
「どんなに社内で準備したって、その恐怖を克服しなければ、提案そのもの
ができないじゃないか」


部下 :
「……」


マネージャー :
「そうだろ?」


部下 :
「返す言葉がありません」


マネージャー :
「先日、ある若手社員とロープレをやったんだ。そうしたら、全然できない
んだよ。提案プロセスになったら提案しますって言ってるんだけれど、その
前に、提案するコミュニケーションスキルがない」


部下 :
「まったく反論できません」


マネージャー :
「要するに、『やれと言われればやりますけれど、私はあえてやらなんで
す』という態度なんだよな」


部下 :
「……」


マネージャー :
「それで実際にやらせると、できない」


部下 :
「はい」


マネージャー :
「それだけ場数が足りないからだ」


部下 :
「ええ」


マネージャー :
「そういう人を何て言うか知ってるか?」


部下 :
「いえ」


マネージャー :
「『NATO』だ」


部下 :
「え? 北大西洋条約機構ですか?」


マネージャー :
「違う。『No Action Talk Only』だ」


部下 :
「……要するに、口だけ、ってことですか」


マネージャー :
「そう」


部下 :
「……ひえェ」


マネージャー :
「だからといって、社内でロープレばかりやっていても、ロープレが上達す
るだけで本番では生かされない」


部下 :
「やはり、現場へ行け、と」


マネージャー :
「基本だろ?」



……営業トークを鍛えるために、社内でロープレを繰り返す企業もあります。

しかし、ほどほどにして現場へ足を向けましょう。

訪問頻度もそうですが、訪問先が少なすぎると、毎回「勝負」したくなります。

「勝負」しようとすればするほど足を向けられなくなりますし、毎回「勝負」
ばかりだと疲れますから。

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【編集後記】

私はギャング映画が好きです。

ロバート・デ・ニーロやアル・パチーノの映画はだいたい観たのでは、と思っ
ています。

「ゴッドファーザー」や「グッドフェローズ」もいいですが、「スカーフェイ
ス」がお気に入りです。

アル・パチーノが扮した、主人公トニー・モンタナはキューバ出身。母国語が
スペイン語ですので、彼はスクリーン上「スペイン語訛りの英語」を話します。

コカインの密売で成金となっていくトニー・モンタナのキレた態度に、「スペ
イン語訛りの英語」が妙に馴染むのです。

私は青年海外協力隊時代、中米グアテマラにいました。中米カリブ海諸国のヒ
スパニックが、どのような英語を話すのか、何となくわかります。

アル・パチーノは、他の映画で、ほとんどこのような喋り方をしないとわかっ
ていたため、このモンタナ役にどれほど入り込んでいるのか、その訛りを聞く
だけでわかります。

映画の後半、俳優アル・パチーノは、麻薬の大量摂取によってイカれていくト
ニー・モンタナと同化していきます。いや、トニー・モンタナそのものではな
いかと思うほどの激しい演技を見せます。

あまりのイカれっぷりに、興ざめする観衆もいるでしょうが、私はアル・パ
チーノが使う「スペイン語訛りの英語」にやられました。

あの言い回しをずっと聞いていると、現実と非現実の区別がつかなくなるので
す。

プロの俳優として、どれほど喋る鍛錬をしたのか、どれほど現地の人と交流し
たのか、そしてどれほどの臨場感あるイメージトレーニングをしたのか、考え
てしまいます。

プロとは、そういうものですね。