2014年7月30日

「私ばっかり」という人へ……【エレン・ランガーの循環論法】

● 今回のテクニック:【エレン・ランガーの循環論法(6)】

「それらしき理由」がある場合、人は説得されやすくなる。これを証明したの
がエレン・ランガーであり、エレン・ランガーの循環論法とも言う。

循環論法とは、結論の真理が前提の真理に依存し、その前提の真理はそのまた
前提の真理に依存する……。というように、AだからBであり、BなのはCだ
からであり、CなのはAだからである……というように、論拠がぐるぐる循環
していること。

思い込みが思い込みを呼び、頭をどんなにひねっても、その思い込みの根拠が
別の思い込みによって証明される場合、解決しようがない。

ここで紹介するランガーの循環論法は、少し乱暴な説得技術のように聞こえる
が、人間は説得される「理由/証明」を探しているのかもしれない。

「コピーをとらせてもらえませんか?」

と聞くと60%の承諾率だが、

「コピーをとらないといけないので、コピーをとらせてもらえませんか?」

と質問すると承諾率は93%に跳ね上がる。「理由」になっていなくても、
「それらしき理由」があれば、人は説得されやすくなる。


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● 今回のコミュニケーション例


部下 :
「どうして私が1億2000万円の目標なんですか? 他の営業は、全員1
億円なのに」


マネジャー :
「君の場合、すでに1億円が見えている。他の営業とは前提が違うんだ」


部下 :
「しかし、それは私が過去、お客様と関係を構築してきた歴史があるからで
す。その分だけ私の目標が引き上げられるなんて、おかしいじゃありません
か」


マネジャー :
「おかしいかな」


部下 :
「おかしいですよ。結果を出せば出すほど、目標が引き上げられるんだった
ら、結果を出さないほうがラクです」


マネジャー :
「……うーん」


部下 :
「それに、今度の新商品発表会のプロジェクト、私がプロジェクトリーダー
に任命されました」


マネジャー :
「君が適役だと思ったからだよ」


部下 :
「毎年プロジェクトリーダーは開発部から選出されたと思います。どうして
今年は営業部からなんですか」


マネジャー :
「だから、君が適役だと思ったから私が推薦したんだ」


部下 :
「課長が推薦した? どうして私ばっかり、こんな仕事をやらされるんです
か?」


マネジャー :
「こんな仕事?」


部下 :
「いや、こんな仕事、というのは言い過ぎかもしれませんが、いくらなんで
も不公平です」


マネジャー :
「そんなに不公平か?」


部下 :
「不公平ですよ。同期入社した人の中でも、私ばっかり負荷が大きい気がし
ます」


マネジャー :
「負荷って、どういう負荷なんだ」


部下 :
「先ほども言ったとおり、私は同期はおろか、先輩よりも高い目標を言い渡
されています。さらに、より責任の重い仕事も任されています」


マネジャー :
「それが負荷なのか」


部下 :
「そうですよ。給料なんてそんなに変わらないじゃないですか。それだった
ら、仕事をこなすだけ損するばかりです」


マネジャー :
「本当に、そうなの?」


部下 :
「え」


マネジャー :
「本当に、損なのか?」


部下 :
「……」


マネジャー :
「君は、本当に、他の人よりも、損をしているのだろうか?」


部下 :
「……」


マネジャー :
「君はすごくテキパキと仕事をこなす。だから少なくとも他の人よりも労働
時間は長くない。残業もほとんどない」


部下 :
「そりゃ、そうでしょう。それだけ創意工夫しているからです。他の人だっ
て、もっと効率的に仕事すればいいんです」


マネジャー :
「まったくその通りだ。まったくその通り」


部下 :
「だったら……」


マネジャー :
「先日、君が全同僚に配布したレポートを読んだ。どのように業務効率化す
ればいいかを、実体験に基づいて記してあった。あの7枚のレポートを作る
のに、どれぐらいの時間がかかった?」


部下 :
「あれは45分です。レポートに書いたとおり、作業をする前に、どれぐら
いの時間がかかるか仮説を立てていますので、明確に覚えています」


マネジャー :
「うん、そうだな。あの7枚のレポートを45分で作成するんだ」


部下 :
「ゼロから作ったのではなく、本を読ん得た知識を自分なりにカスタマイズ
した内容です。ですから45分でできて当たり前です」


マネジャー :
「内容もそうだが、文章も読む人がわかりやすいように工夫してあった。フ
ォントのサイズ、装飾、そしてイラストまで挿入されていた」


部下 :
「あれぐらいのレポートなら、簡単にできますよ」


マネジャー :
「簡単か……」


部下 :
「そうですよ、簡単です。あんなの」


マネジャー :
「それが簡単じゃない人も、いるんだよ」


部下 :
「……」


マネジャー :
「君は入社したときから、人前でプレゼンさせても上手だった。よどみなく、
自分の考えを整然と話すことができた。はっきり言って社会人としてポテン
シャルが高く、おそらく営業だけでなく、何をやらせてもうまくいくタイプ
だ」


部下 :
「そうでしょうか? 私は誰でもできることをやってるだけです」


マネジャー :
「意外と、できないものなんだ」


部下 :
「それって、ただの努力不足じゃないんですか? 私は同期と比べて有名大
学も出ていませんし、すごい資格を持っているわけでもありません。普通に
仕事をこなしてるだけです」


マネジャー :
「ただの努力不足って……」


部下 :
「だってそうじゃないですか。不公平ですよ。私ばっかり、大変な仕事がま
わってくるんですから」


マネジャー :
「そうだなァ……」


部下 :
「……」


マネジャー :
「そこまで言うなら、目標を下げてみるか。そしてプロジェクトリーダーも
降りてもらおう」


部下 :
「……」


マネジャー :
「確かに、私は都合よく、君にばかり仕事を押し付けてきたかもしれない」


部下 :
「……じゃあ」


マネジャー :
「……」


部下 :
「ど、どうするんですか。目標とか、プロジェクトは」


マネジャー :
「私がやるよ。私の目標を上乗せする。プロジェクトも私の管轄とする」


部下 :
「そんな……。他にも、できる人がいるはずです」


マネジャー :
「君の目にどう映っているかわからないけれど、他のメンバーも大幅にやる
ことを増やしてるんだ。その人のポテンシャルとペーシングしなくちゃいけ
ない」


部下 :
「だ、だって……。課長も、ものすごく仕事を抱えてるじゃないですか」


マネジャー :
「私にもそれなりのポテンシャルがある。あんなレポートを45分では完成
できないけど」


部下 :
「……」


マネジャー :
「正直なところ、私には、そんなに大変な仕事には思えないんだ。だから君
に任せた。君ならできると思ったから。本当に、それだけなんだよ。大して
理由などない」


部下 :
「……でも、課長ばっかり仕事を抱え込んで、不公平だと思わないんです
か?」


マネジャー :
「うーん、君は不公平って言うけど、そんなに不公平なのかなァ」


部下 :
「不公平ですよ。絶対に、そう思います。課長は鈍感じゃないんですか?」


マネジャー :
「不公平さに敏感になってたら、いつまで経っても幸せは訪れないと思う
よ」


部下 :
「……」


マネジャー :
「職場でもそうだし、家庭でもそうだし、地域社会でもそうだと思う」


部下 :
「……」


マネジャー :
「自分に与えられた仕事だから、やる。それだけだ。労働時間が超過するな
らいけないけれど、ね」


部下 :
「課長……」



……業務の負荷バランスを考えることは重要ですが、「最適化」できるかとい
うと、それは別の話。

将来において「目指す」のですが、今は現時点で「できる」ことを考えなけれ
ばなりません。

何らかの負荷を背負うとき、気をつけなければならないのは「労働時間」だと
思います。

労働時間内に終わることであれば、「どうして私ばっかりやらなくてはならな
いのか」「あの人は遊んでいるのに」「不公平だ」「手当をもっと増やしてほ
しい」という思考ノイズは、いったん横に置いたほうがいいですよね。

狭い世界で「公平さ」を求め過ぎても、ハッピーにはなれないと思うからです。


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【編集後記】

妻が持てないという荷物があれば、私が持とう。

部下ができないというノルマがあったら、私がやろう。

隣人が病気だというなら、私が代わりにどぶ掃除をしよう。

ギリギリまで本人に託したいけれど、最後の最後まで粘っても「ムリだ」と言
われたら、すべて自分が代わりにやる。

「なんでこうなるんだ」「世の中、不公平だ」「どうして自分ばっかり」と言
っても、何も解決しない。

誰にも讃えられなくても、評価されなくても、「よくやってるよね」と言われ
なくても、

「人として」そういうものだと受け止めてしまえば、別にいいんじゃないか、
と私は思うようにしています。

葛藤することが多いですが。