2014年10月2日

「話せばわかる」は幻想か?【エレベーターピッチ】

● 今回のテクニック:【エレベーターピッチ(8)】

エレベーターピッチとは、起業家が、あるプロの投資家と偶然エレベーターに
乗り合わせた際、エレベーターが目的の階に着くまでのわずかな時間(数十秒
から1分以内)で、自身のビジネスプランの魅力、優位性を伝えられるか?
伝えられるか伝えられないかでビジネスの明暗を分ける、と言われたことに由
来するプレゼンテーションスキルの概念。

営業がお客様に商材のトピックを伝えるときはもちろんのこと、マネージャの、
部下に対するコミュニケーションにおいても同じことが言える。

短い時間でポイントを正しく伝えることの大切さをあらわしている。


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● 今回のコミュニケーション例


マネジャー :
「君は、どういう風にお客様にわが社の商品を売り込んでいるんだ。ちょっ
とポイントを整理して言ってみてくれ」


部下 :
「ああ……。まァ、当社の商品なら、いろいろなお客様への導入実績がある
と言いますね。たとえば建設会社とか、あと、意外に商社とかも」


マネジャー :
「うーん……。相変わらず君との会話は歪んでしまうな。ぜひ、歪みを補正
したい。私が聞いているのは、当社商品のセールスポイントだ」


部下 :
「セールスポイントってことは、他社と差別化できるポイントってことです
よね。やっぱりお客様に合わせて提案できるところじゃないでしょうか。そ
こはけっこう評価されていると思います。たとえば建設機械のB社さんとか、
すごく喜んでくださってます。今回の夏の商談だって……」


マネジャー :
「もういい、もういい。全然ダメだ。会話が歪みっぱなしだ。全然私が望ん
でいる答えが返ってこない」


部下 :
「そうですか……。私も課長が何を聞きたいのかわかりませんが」


マネジャー :
「セールスポイントだよ。お客様を前にして、たとえば1分しか時間がなか
ったら、どんな風に伝えるんだ?」


部下 :
「1分ですか? そんなシチュエーションなんて実際にはないじゃないです
か」


マネジャー :
「たとえば1分しかなかったら、どうアピールするんだって聞いてるんだよ
っ」


部下 :
「買ってください、……と連呼します。買ってください! 買ってくださ
い! 買ってください! 買ってください! ……と言います」


マネジャー :
「……」


部下 :
「これでいいですか?」


マネジャー :
「もういいよ」


部下 :
「どうして、そんな疲れた顔をしてるんですか。だって1分しか時間がなか
ったら、それぐらいしか言うことないじゃないですか」


マネジャー :
「当社のセールスポイントを言ってくれって」


部下 :
「ですから……」


マネジャー :
「『買ってください』はセールスポイントじゃないだろう!」


部下 :
「あああ……。確かに。でも、要するにアレですよね。セールスポイントが
あってもなくても売れるときは売れますし、売れないときは売れない。ここ
が営業活動の難しいところです」


マネジャー :
「何を言ってるんだ?」


部下 :
「だってそうじゃないですか。セールスポイントがどれぐらい大切かと聞か
れても、私はそれほど大切じゃないとしか答えられません」


マネジャー :
「だーかーらー……! セールスポイントの大切さなんて聞いてないって!
君がお客様に当社のセールスポイントを1分間で伝えるなら、どういう風に
なるかって聞いてるんだ」


部下 :
「何を言ってるのか、全然わかりませんが」


マネジャー :
「どうしてわからないんだよっ!」


部下 :
「じゃあ、課長だったらどう言うんですか?」


マネジャー :
「『当社が扱う油圧駆動システムのセールスポイントは2つです。1つめが
小型。2つめが遠隔操作です。1つめの小型というのは、油圧ポンプの大き
さであり、他社製品と比較して3分の2の大きさで1.3倍の力を発揮する
ことができること。2つめの遠隔操作というのは、独自遠隔操作システムに
より油圧を間接制御できること。これにより特殊な用途で開発された機械へ
の搭載も可能となりました。当社の油圧駆動システムのセールスポイントは
2つで、小型と遠隔操作です。もう一度繰り返します、小型、遠隔操作、で
す。ぜひ覚えてください』」


部下 :
「ふーん……」


マネジャー :
「私は君に、こう言って欲しかったんだ」


部下 :
「それぐらい言えますよ」


マネジャー :
「言えても言わなかったじゃないか」


部下 :
「言えても言わなかった? どういう意味なんですか」


マネジャー :
「私は1分間でセールスポイントを言ってくれと言ったんだ。問題は、私が
言っていることを歪んで受け止め、いつまで経っても私が期待した回答を言
わなかったことだ」


部下 :
「課長が言っていることを歪んで受け止め……ですか? 申し訳ありません
が、さっきから課長、何を言ってるのかさっぱりわかりません」


マネジャー :
「何を言ってるかさっぱりわからないって……」


部下 :
「だってそうでしょう。セールスポイントを1分で話せと言われても、何が
なんだか……」


マネジャー :
「もういい。わかった……。君は本当にお客様と正しくコミュニケーション
できているか、本当に心配だよ。ところでK社の部長との会食はセッティン
グできたのか」


部下 :
「K社の部長でしたら昨日、電話しました。お体もずいぶん良くなられたそ
うです」


マネジャー :
「ああ、確かに体調を崩されていたからな。それでK社のM部長との会食は
セッティングしたのか、と聞いてるんだ」


部下 :
「K社の商談について知りたいのでしたら、営業支援システムで報告させて
いただいてますが。何か補足説明でも?」


マネジャー :
「何を言ってるんだ、一昨日、M部長との会食をセッティングしろとメール
で指示したじゃないか」


部下 :
「K社との商談が暗礁に乗り上げていることを懸念されているのでしたら、
安心してください。抜かりなくやってますから」


マネジャー :
「だから何をさっきから言ってるんだ。私はM部長との会食をセッティング
しろと言ったんだ。商談について懸念しているわけじゃない。K社のM部長
は私の大学時代の先輩で、この業界に詳しい人脈があるから紹介してほしい
からだ、とメールに書いただろう」


部下 :
「この業界に詳しい人脈、と申しますと?」


マネジャー :
「そんなことはいい! とにかく、一昨日頼んだM社のK部長との会食をセ
ッティングはどうなったと聞いてるんだ。私の質問に答えてくれ」


部下 :
「ははは。課長。M社のK部長じゃなくて、K社のM部長ですよ」


マネジャー :
「もういい! 私が自分でやる!」



……現場でコンサルティングをしていると、上司と部下、営業とお客様……い
ろいろなパターンで「会話が歪んでいるな」と認識することがあります。

正しく会話のキャッチボールができないのに、それにさえ気づかない人もいま
す。

単なる雑談なら問題ありませんが、チームで目標を達成したい。問題を解決し
たい、というときに困りますよね。

私は会話の「歪み度」を個人的に数値化しており、「歪み度」が高い人には気
を付けて話をするようにしています。

決して、メール等の一方通行のコミュニケーションだけに頼らず、リアルレス
ポンスが戻ってくる面談か電話で、ミスコミュニケーションを回避しようと心
がけます。

「話せばわかる」とよく言いますが、「歪み度」が高い人とぼんやり話をして
いてもわかり合えないですから。

歪みを「補正」する技術が必要です。


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【編集後記】

ありがたいことに営業の現場にいると「言い訳」や「作話」が、常日ごろから
飛び交っており、

「言い訳研究の第一人者」を自認する私としては、恵まれた環境にいるなと受
け止めております。

(もちろん、言い訳ばかりに触れ続けているとストレスがたまるわけですが)

「言い訳」もある意味「歪み」です。

日々の会話が歪んでいると、思考も歪んできますから、平気で言い訳ができる
ようになってきます。

ちなみに「会話」の歪みは、こちら側の努力で、ある程度「補正」することが
できます。

しかし、私がいつもストレスを感じるのが「スピード」です。

他人のスピード感を変えるのは難しい。

動きが遅いことを認識している人はいいのです。自覚があるので「補正」しや
すいのですが、

動きの遅さを自認していない人の行動スピードを「補正」するのは、けっこう
難しいですね。

もちろん部下の動きは「補正」できますが、パートナー企業やクライアント企
業で、動きが恒常的に遅い人とは、なかなかうまくやれませんね。

ただ「遅い」というだけで、成し遂げられるはずのことが成し遂げられなくな
るというストレスは大きいです。

とても残念なことです。

ということは、

「スピード」という武器を持っている人は、それだけで、相当なアドバンテー
ジがあるという事かなとも思います。

(短期的に見ると、必ずしもスピードが速ければいいというものではありませ
んが、中長期的な視点で見ると、スピードが速いというだけで、物事の成功確
率は飛躍的に伸びていきます)