2014年12月1日

「値引き」すると、なぜよけいに売れなくなるのか?【アンダーマイニング効果】

● 今回のテクニック:【アンダーマイニング効果(5)】

内的動機づけ(モチベーション)に対して、報酬を与えるなど外的動機づけ
(インセンティブ)を行うことによって、反対に意欲が低くなる現象。

「過正当化効果」とも呼ぶ。

意欲的な活動をしている人物を評価し、金銭的報酬を与えると、かえって逆効
果になりやすい、などの例がある。


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● 今回のコミュニケーション例


マネジャー :
「上半期の数字が芳しくない。現時点で、君の実績は目標に対して89%の
達成率だ」


部下 :
「はい。昨年と比較すると95%の達成ですが」


マネジャー :
「業界は昨年対比で107%と伸びている。それを見込んで今期の目標を設
定した」


部下 :
「わかってます」


マネジャー :
「わかってます、じゃないだろう。君はどう分析しているんだ?」


部下 :
「ううーん……。やはり価格じゃないかと思うんです」


マネジャー :
「価格?」


部下 :
「はい。以前からお話しているとおり、見積りの段階で他社と負けるケース
がほとんどなのです。私としては、もっと価格優位性を打ち出さないと」


マネジャー :
「確かに、今年に入ってから見積りプロセス後に破談となっているケースが
32件中15件と、ほぼ半分だ。これは非常に大きな要因だと言っていい」


部下 :
「そうなんです。実際にお客様にもヒアリングしたところ、当社を選んでく
れない理由は『見積』に魅力を感じないと言われておりまして」


マネジャー :
「なるほど。ところで、別の数字を見ていこう。君以外の営業4人は、現時
点で全員目標を達成している。平均で109%。市場の伸長率とほぼ同じ
だ」


部下 :
「あ、そうなんですか」


マネジャー :
「そして、見積りのプロセスで破談になったケースはだいたい15%ぐらい
だ。つまり君のケースは突出して多い」


部下 :
「はァ……」


マネジャー :
「同じ商材を扱っているにもかかわらず、だ」


部下 :
「商材は同じかもしれませんが、お客様は違いますからね。それに、お客様
自身が言っていることです。『もっと安くしてくれないと困る』って」


マネジャー :
「それも事実だろう」


部下 :
「でしょ? 私の営業力の問題ではありませんよ」


マネジャー :
「君の営業力の問題だ」


部下 :
「えっ?」


マネジャー :
「この問題は今にはじまったことじゃない。もう何年も前から、君は売れな
かった理由を『価格』だと言い続けてきた。商材が変わっても、いつもそう
だ」


部下 :
「そ、そうでしょうか……」


マネジャー :
「君は商談をするとき、当社の商材がいかにお客様の問題を解決するのか、
その魅力を十分に伝える前から、すぐに金額の話をする」


部下 :
「う、うーん」


マネジャー :
「お客様が決断する理由は『しっくり』くるかどうかだ。すべて人間は経済
合理性に基づいて判断しているわけではない。何となく『しっくり』くるか
どうかだ」


部下 :
「しっくり……」


マネジャー :
「確か、君はファッションにこだわりがあっただろう?」


部下 :
「どちらかというと、そうですね。服や靴などはこだわっています」


マネジャー :
「たとえば通常価格2万円のバッグがあり、君はそのバッグを気に入って何
とか手に入れようとお店へ行ったとき、店員から『いまキャンペーン価格で
1万7000円になります』と言われたら、どう思う?」


部下 :
「そりゃあ、嬉しいですね。即決で買います」


マネジャー :
「ところが何かの事情でその時は買わず、1週間後にそのお店へ行ったらキ
ャンペーンは終わっていた。再び価格は通常の2万円になっていたら、どう
する?」


部下 :
「……再び、2万円ですか。うーん、悩ましいですね」


マネジャー :
「交渉したら、1000円相当のアクセサリーをつけて、さらに500円
も値引きしてくれると言ってくれたら、どう思う?」


部下 :
「それでも、キャンペーン価格だった1万7000円には届かないですよね。
もう少し何とかならないかな、と思います」


マネジャー :
「結局、納得がいかず、君はそのバッグを買わないことに決めた。そして帰
宅した後、そのお店の店員から電話がかかってきて、『1万8000円まで
下げますからお願いします』と言われたらどうする?」


部下 :
「……うーん。1000円分のアクセサリーなんて要らないですから、その
分さらに1000円ひいてもらって、1万7000円にならないかな。もう
ひと押し、価格交渉するかもしれません」


マネジャー :
「本当に、君は価格交渉をするか?」


部下 :
「え?」


マネジャー :
「もう一度聞く。本当に、君はそのお店にまた連絡して、その定員を呼び出
し、値段を下げてくれと価格交渉をするか?」


部下 :
「その店に連絡して、定員を呼び出し……」


マネジャー :
「しないだろう?」


部下 :
「そう、ですね……。しないでしょうね」


マネジャー :
「なぜだと思う?」


部下 :
「……どうして、でしょうか。面倒、だからかな」


マネジャー :
「『しっくり』こないからだよ、その店員の対応に」


部下 :
「……!!」


マネジャー :
「君が欲しがっていたバッグは最初、2万円の価値があった。しかしキャン
ペーン価格を目にした途端、1万7000円の価値にまで下がってしまった。
しかも何度も、何度も、条件を下げてくる店員の態度を見て、君は……」


部下 :
「……」


マネジャー :
「そのバッグ自体の価値や魅力を感じられなくなってきた」


部下 :
「そ、そうかも」


マネジャー :
「店員の態度が、お客様の焦点を、商品そのものにではなく『価格』に向け
てしまったからだ」


部下 :
「じゃあ、私も……」


マネジャー :
「そうだ。お客様の焦点を『価格』に向けているのは、営業である君自身だ。
だから君の場合、見積りプロセスでうまくいかないときが多い」


部下 :
「私が、お客様に、『もっと安くしてくれ』と言わせているんですね……」


マネジャー :
「そうだ。君でうまくいかなかった会社に、他の営業が提案へ行くと、もっ
と高い見積りでも成功する。つまり価格じゃないんだ」


部下 :
「そうだったのか……」


マネジャー :
「値引きも『金銭的報酬』だ。値引きを魅力の一つにすると、かえって購買
の意欲を落とすお客様はいるんだ」


部下 :
「ようやく、理解できました」


マネジャー :
「『安くしないと売れない』と思い込んでいると、本当に、安くしないと売
れなくなる。君自身がお客様の感情を引き寄せているんだ」


部下 :
「かしこまりました。すごく理解できました。しかし、本当に見積りだけで
判断されるお客様もいますよね」


マネジャー :
「それが『不燃客』と呼ばれるお客様だ。常に経済合理性に基づいて意思決
定をする。お客様の属性を見極めて対応してほしい」


部下 :
「誰でも価格を下げれば喜んでくれると思い込んでいました」



……今日のメルマガ本文は、8月に掲載された日経ビジネスオンラインのコラ
ムを大幅にアレンジしたものです。

この時のコラムはフェイスブックで2100以上の「いいね!」がつくなど、
SNSを介してかなり拡散していきました。

それほど多くの方に共感された内容だったのでしょう。

誰もが「値引き」によって購買欲を上げるわけではありません。人に感化され
る度合……「同調性バイアス」のレベルによって変わります。

「不燃客」ならともかく、「自燃客」「可燃客」には、安易な値引きは「売れ
ない空気」を作るだけです。

新刊で「自燃客」「可燃客」「不燃客」をどう見分けるか、ぜひチェックくだ
さい。


■「空気でお客様を動かす」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4894516454/mysterycon0c-22/ref=nosim

※すでに大型書店では販売スタートしています。

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 【54点】……本日のメルマガ本文に対する横山の「お気に入り度」
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【編集後記】

新刊「空気でお客様を動かす」は。5月に発売した「空気で人を動かす」の続
編のように思われるでしょうが、

タイトルが似ていても「続編」ではありません。

「空気で人を動かす」はリーダーシップやチームビルディングがテーマ。

目標を絶対達成させるためにどうすればよいか、「絶対達成シリーズ」や「脱
会議」と共通で、「組織力」をアップさせるための施策が書かれています。

しかし新刊「空気でお客様を動かす」はマーケティングがテーマ。

「空気で人を動かす」と同様、「脳のミラーニューロン」の影響で、どのよう
に「人」が「人」を感化させるかを扱っています。

しかし、舞台は組織の中ではなく、外。

買うつもりがなかったものを、どのように感化されて、その気になってしまう
のか。

その空気を、どのように意図的に作ることができるか。顧客心理にどうバイア
スをかけるのか?

営業はバイアスをはずし、お客様にはバイアスをかける――。

自分が、お客様の立場として読んでも参考になる書籍です。

私としては、お客様がどのような場所で、どのような空気によって感化される
のかがわかれば、どのような商売が、一番「ラク」に儲かるかがわかると思っ
ています。